新感覚 - バレンボイムによるマーラー第9交響曲
マーラー交響曲の魅力
アンリ=ルイ・ド・ラ・グランジュ (Henry-Louis de La Grange) という人は、マーラー研究の第一人者と呼ばれています。この方のフランス語で書かれたマーラー評伝は、全三巻、3600ページにも及ぶもので、さらに英語版、単なる英訳ではなく大幅な増補改訂版、全四巻というものも存在するそうです。
私自身、この三十年間、何百回と聴きつづけてきたマーラーの交響曲でも、注意して聴けば、必ずそこに新しい発見がある。
ド・ラ・グランジュさんのいう発見
と私の発見では、まったく質が違うと思います。しかしやはり、マーラーの交響曲は聴いた数だけ新しい発見
があると思うのです。
バレンボイム指揮によるマーラー第9交響曲の録音を聴いたとき、ド・ラ・グランジュさんのこの言葉を思い出しました。
マーラー:交響曲第9番 / バレンボイム指揮、ベルリン・シュターツカペレ
今日で3日連続聴いています。新しい発見
のし通しです。全体の音量バランスやアゴーギグ、各々の歌いまわしの違いからか、ここでこんな楽器がこんなことをやっていたのか、といった、今まで気づかなかったものが聴こえ、それによって受ける印象がとても新鮮です。
斬新には聴こえるものの、それが「わざとらしさ」や「目立ちたがり屋の仕業」のようには決して聴こえず、単に解釈の違いとして自然に聴くことができます。こんな解釈があったのか、という発見
です。
マーラーの楽譜には、強弱や表現についての記号が、場合によっては注釈なども、こと細かに書き込まれているので、指揮者の仕事はほとんどない、ということも聞いたことがあります。なのに、世の中にはマーラー交響曲の録音はたくさん存在し、それぞれがそれぞれの表情を持っているから不思議ですね。